マイホーム探しの際などに販売図面を見ていると、権利関係の欄に「借地権」との記載のある物件を目にすることがあります。

しかしながら、「では借地権とは一体何なのか?」と質問されて的確な回答ができる方は非常に少ないはずですし、『以前にネットで検索してみたが、漠然としか解らなかった・・・」という方も多いことでしょう。

そこで本日は「借地権とは?わかりやすくご説明いたします!」と題して、不動産を扱う上で避けては通れない『借地の問題』について解説させていただきたいと思います。

借地権とは

 

借地権とは?

アパートやマンションのお部屋を借りることを「建物賃貸借」などと呼びますので、「借地権」という言葉の響きから『単に土地を借りる権利』とお考えの方も多いようですが、これは少々誤った解釈となります。

もちろん、不動産の賃貸借契約の中には資材置き場等とすることを目的にした「単純な土地の賃貸借」もありますが、こうした契約は『民法上の土地賃貸借』と呼ばれ、借地権とは別物となります。

では一体、『借地権とはどのような権利なのか?』と言えば、「建物を建てることを目的に土地を借りる権利」を指すことになります。

そして建物を建てることが目的である以上、地主の一方的な事情で契約の解除が行われるようなことがあってはなりませんから、「借地借家法」という法律によって手厚い借主保護のルールが定められているのです。

*資材置き場などの単なる土地の賃貸借には借地借家法は適用されません。

なお、借地権が設定された土地には、借主名義の建物が建築されることになりますから、

  • 土地/貸主(地主)の所有物
  • 建物/借主(借地権者)の所有物

という、少々複雑な権利関係が構築されることになります。

こうした特殊な権利関係であるが故に、借主は

  • 土地を借りる対価として地主への地代の支払いが必要
  • 地代の滞納等、借地契約に対しての違反があった場合には、地主から契約を解除される場合が可能がある
  • 建物は自身の所有物なので固定資産税等を負担しなければならない(地主は土地の固定資産税等を負担する)
  • 建物(借地権)のみを売却することが可能
  • 定期的に借地契約の更新が必要となる
  • 増改築や建替え等の一定の行為を行うのに地主の承諾が必要なケースがある
  • 借地権の転貸は多くの契約で禁止されている
  • 借地権自体の転貸は禁止のケースが多いが、建物の第三者への貸出し(第三者への建物賃貸借)は自由に行える
  • 借地契約終了時は更地にして地主へ土地を返還する、または地主へ借地権(建物)を売却する等の方法で処理が行われる
  • 借主が死亡した場合、地主の承諾なく相続人が新たな借主となることができる

といった、借地権ならではのルールに則って居住を続けることになります。

借地権の分類

さて、一口に借地権と言ってもいくつかの種類が存在しており、「賃借権に基づく借地権」と「地上権に基づく借地権」という分類と、「旧法借地権」なのか「新法借地権」なのかという違いが最も大きな区別となりますので、以下ではその点を解説してまいりましょう。

「賃借権に基づく借地権」と「地上権に基づく借地権」

この2つの借地権は共に建物を建てることを前提とし、借地借家法の保護対象となる等、非常に似た部分を持ってはいるのですが、厳密に申し上げると次のような違いがあります。

賃借権に基づく借地権

借地権の根拠となる権利が「債権(地主の承諾により発生する支配権)」となっている。

地主の承諾があれば、土地に対して借地権の登記をすることも可能ではあるが、この承諾を得られるケースは滅多にありません。

また、譲渡(建物の売却)や転貸(土地の又貸し)については地主の承諾が必要である上、譲渡承諾料等の費用が発生します。

地上権に基づく借地権

借地権の根拠となる権利については「物権(対象物を直接的に支配する強い権利)」となっており、債権よりも強固な権利である点が特徴。

登記についても、地主の承諾なしこれを行うことが可能となります。

更に譲渡等についても原則として地主の承諾や承諾料は不要であり、契約の内容次第では地代を支払う義務もありません。

 

さて、このように異なる性質を持つ賃借権と地上権ですが、「地上権」はあまりにも権利が強力であるがために地主から敬遠される傾向が強く、世間に存在する借地権の多くは「賃借権」に基づくものとなります。

「旧法借地権」と「新法借地権」

さて借地権には、前項で解説した賃借権と地上権以外にも「旧法」と「新法」という異なる法律に基づく2つの種類が存在しています。

実は1993年に借地権に関する大規模な法改正が行われ、これ以降に設定された借地権については借地借家法(新法)の支配を受けることになりますが、法改正以前から存在した借地権については借地法(旧法)という法律に基づいた運用がなされるルールとなっているのです。

なお、旧法と新法の主な違いについては以下のようになっています。

旧法借地権(借地法に基づく借地権)

旧法においては、建物について「堅固建物(RC造の建物など)」と「非堅固建物(木造の建物など)」という2つの種別(分類)が存在しています。

契約期間については堅固建物で30年以上、非堅固建物については20年以上(更新時も同様の期間以上とする必要あり)としなければなりません。

また、朽廃(きゅうはい)による契約の終了が定められており、建物が極度に老朽化した場合は契約が終了する場合があります。(建物が崩壊する程に朽ちていないと認められません)

新法借地権(借地借家法に基づく借地権)

一方、新法においては堅固建物等の建物についての種別がなくなりました。

そして建物の種類を問わず、契約期間は初回で30年以上、1回目の更新契約で20年以上、2回目以降の更新契約は10年以上とすることが定められています。

更に朽廃(きゅうはい)という概念も廃止となりました。

※旧法と新法の違いについての詳細は別記事「旧法借地権と新法借地権について」をご参照ください。

定期借地権

また借地借家法(新法)が施行された際、新たに導入されたのが定期借地権という制度となります。

*借地借家法においては、更新が可能な借地権(定期借地権以外の借地権)を「普通借地権」と呼びます。

借地権という言葉のニュアンスから「土地は所詮借り物、何時かは地主に解約を迫られるのでは・・・」とお考えの方も多いかもしれませんが、実は地主側の都合で契約を解除するには正当事由(やむを得ない事情)が必要であり、『土地を別の用途に使用することになった』等の事情では、まず契約の解除が認められないのが通常です。(地代の滞納等、借主に契約違反等がある場合は別ですが)

また、強引に地主が契約の解除を求めた場合には、借地権者は借地権(建物)の買取りを地主に請求することも可能となりますので、借地権はある意味で「非常に強硬な権利」ということができます。

こうした事情から、近年では「土地を貸したくない」という地主も増えつつあり、これを放置すれば不動産の流通にも大きな影響が出かねない状況となっていました。

そこで借地借家法の導入に際して、一定の期間が経過すれば確実に契約を終了することが可能な「定期借地権」という制度が誕生することとなり、以下の3種類が運用されています。

一般定期借地権

  • 借地権存続期間/最短でも50年以上
  • 更新等について/契約更新・期間の延長・建物買取請求権は認められない
  • その他の特徴/マンション分譲において用いられることが多い

建物譲渡特約付借地権

  • 借地権存続期間/最短でも30年以上
  • 更新等について/契約更新は認められない
  • その他の特徴/契約満了時、借地権者が建てた建物を地主が買い取らなければならない

事業用借地権

  • 借地権存続期間/10年以上50年以下
  • 更新等について/契約更新・建物買取請求権は認められない
  • その他の特徴/事業用物件限定で契約の締結が可能、コンビニやファミレスなどの契約に用いられる

なお、この3つの定期借地権についての詳細は別記事「定期借地権とは?という疑問にお答えします!」をご参照いただければと思います。

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借地物件の特色と注意点

ここまでの解説にて借地権という制度の概要についてはある程度ご理解いただけたことと思いますが、本項ではより詳細に借地権が設定されている物件の特色や注意点についてご説明していきたいと思います。

借地権の関係者の呼称

まず借地を借りる借主についてですが、不動産業界においては「借地権者」と呼ばれるケースが多く、これに対して土地を貸し出す貸主は「地主」や「底地権者」と称されることが多いでしょう。

*「底地権」とは借りる側の権利である借地権と対になる「地主側の権利」を表す用語なのですが、実務において多用されるワードではあるものの正式な法律用語ではない点にご注意ください。

借地権の対抗要件

さて、借地権者は建物を建てる目的で土地を借りることになりますが、将来的に地主から「立ち退いて欲しい」などと言われては困ってしまいますので、設定された借地権を確固たるものにしておく必要があります。

そこで必要となってくるのが法務局で行う登記(国に権利を保障してもらう制度)ということになりますが、土地に対して賃借権の登記を行うこと自体は不可能ではないものの、地主の承諾が必要となるため簡単にこれを行うことはできません。

そこで法律は、建築する建物の名義(建物の所有権者)を借地権者とすることで「対象の土地に借地権が設定されたとみなす」というルールを定めました。

よって借地権とは、土地を借り、その上に借主名義の建物を建築することで成立する権利とも言い換えることができ、裁判などで借地権の存否が争われる場合には「借地権者名義の建物が存在しているか否か」が大きな争点(地主に対する対抗要件)となるのです。

このように借地権の物件においては「建物は借地権者の所有物」「土地は地主の所有物」といった少々複雑な権利関係が構築されることとなり、こうした事情から以下のような「借地権ならではの特徴や注意点」が生じることとなります。

借地権の地代について

借地権は建物を建築する目的で土地を借りる契約となりますので、当然ながら借地権者は定められた地代(賃料)を地主に支払わなければなりません。

また、お部屋を借りる際と同様に地代を滞納し続ければ、当然借地契約を解除されることとなるでしょう。

但し、借地権者は借地借家法によってしっかりと守られていますので、地代の滞納等の契約違反を除いては余程のことがない限り借地契約を解除されることはありませんし、地代の不当な値上げなどもまず認められません。

*地主から借地契約を解除するには正当事由(契約を解除する止むを得ない理由)が必要であり、物件の自己利用(地主が自分で土地を使いたい)などの理由では解約できません。

なお、地代について借地権者が注意すべき点は「地代の相場が非常に不透明である」ということです。

アパートの家賃などでしたら、ネットを検索すれば地域の相場はすぐに調べることができますが、地代については圧倒的に情報が少なく、「何十年も土地を借りていたが、実は近隣の相場より高額な地代が設定されていた・・・」というケースも決して少なくありませんから、新規に契約を締結する際などは地元の不動産業者にしっかりと地代の相場を確認するべきでしょう。

借地権の契約期間について

また、契約期間については「旧法借地権と新法借地権」の項で既に触れた通り、旧法の場合は堅固建物で30年以上、非堅固建物で20年以上と定められていますが、これを無視して短い期間の契約を締結していると堅固建物で60年、非堅固建物で30年の契約を締結したことになってしまいます。

*更新時に堅固建物で30年未満、非堅固建物で20年未満の更新契約を締結した場合には、堅固建物で30年、非堅固建物で20年の契約とみなされます。

一方、新法の場合には建物の種類に係わらず初回30年以上、1回目の更新で20年以上、2回目の更新以降10年以上とする旨のルールが存在しており、これを無視して短い経契約期間を設定すると、初回30年、1回目の更新20年、2回目の更新以降は10年の契約を締結したと解釈されるので注意が必要です。

借地権の更新料について

借地に住まう上で必ず知っておきたいのが更新料の問題です。

既にお話しした通り、借地の契約期間は非常に長期となりますのでそれ程頻繁に更新が発生することはありませんが、契約が満了となった場合には、借地権者は更新料を地主に支払わねばならないケースも少なくありません。

※法律上、借地権者に更新料の支払い義務が生じるのは「賃貸借契約書に更新料支払いの文言が入っている場合」または「過去に更新料を支払った実績がある場合」であり、必ず支払い義務がある訳ではありません。

ちなみに、更新料の相場については一般的に所有権更地価格3~5%程度とされていますが、都市部と地方で同様の基準を用いる訳にはいきませんから、地域性を加味した検討が必須となるでしょう。

借地権の各種承諾料について

前項で借地権の更新料についてお話ししましたが、更新料以外にも

  • 借地権(建物)の譲渡
  • 増築・改築
  • 建替え
  • 契約条件の変更

については、承諾料という名目で地主へ費用を支払わなければならないケースが殆どとなります。

※更新料や各種承諾料の相場についての詳細は、別記事「借地権更新料の相場と他の承諾料について」にて詳しい解説を行っております。

※表記の承諾の内、「借地権(建物)の譲渡」と「契約条件の変更」については契約書に記載がなくとも支払い義務が生じ、「増築・改築」と「建替え」については、契約書に記載があれば承諾料が発生することになるでしょう。

建物(借地権)の売却について

先の解説でもサラリと触れましたが、借地の上に建てられた建物を売却(借地権譲渡・名義変更)するには、地主の承諾と承諾料が必要とされています。

もちろん承諾料については、ある程度の相場(借地権価格の10%程度)は存在しているのですが、地主が法外な承諾料を提示して来た場合などには、裁判(借地非訟)で争うしか方法が無く、速やかな売買を行うことは困難となってしまいます。

※借地非訟とは借地権を巡って発生する頻度の高い問題(譲渡や建替えの承諾を巡る問題等)を効率的に解決するために運用されている簡易的な訴訟システムです。

また建物自体は借地権者のものでも、土地は借り物ということになりますから、その評価は低く、所有権価格の60%程度で売れればラッキーというのが現実なのです。(それ以下の価格で取引されることも珍しくありません)

更には、建物の売買が成立しても借地の契約期間に変更はありません(契約書に定められた通りの期限で終了する)ので、更新が間近に迫った物件については更新料分を売買価格に含める必要(更新料分も含めた価格設定をする必要)がありますし、

建物が老朽化しており、購入者が建替えを前提としている場合には「建替え承諾料の支払い」が不可避となりますから、承諾料を差し引いた売買価格の設定を余儀なくされることになるでしょう。

一方、借地を購入する側にとっても、金融機関によっては借地物件への融資を行っていないところもありますし、融資が可能であっても地主からの承諾書や印鑑証明書の提出(融資が焦げ付いた場合、銀行は建物を売却して新たな買い手を見付けることになりますが、その際に購入者が物件を利用できるようにするための承諾書の作成に必要)を義務付けられることになります。

※地主が承諾書等の提出を拒めば、融資は受けられません。

ちなみに、第三者への売買ではなく、相続の場合には原則として「承諾料無しでの名義変更」が可能となりますので、その点はご安心いただければと思います。

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借地権とは?まとめ

さてここまで、借地権に関する概要を「わかりやすさ重視」でお話ししてまいりました。

全体を眺めてみると、借地権者は非常に不利な立場に立たされているようにも思えますが、不動産屋の立場としては「そうとばかりも言えない」というのが率直な感想です。

地代の設定額は一坪「数百円」という格安な地域が多いですし、土地の固定資産税の支払いは地主の負担となりますから、地主にとって地代での収益は殆ど無いというのが現実でしょう。

また、建物が存在する限りは地主からの解約はまず不可能ですし、地代の値上げも難しいとくれば、更新や建替えのタイミングで収益を得たいという気持ちは、充分に理解できる部分もあるのです。

このように考えて行くと、「借地権は所有権とは全くの別物であり、借地ならではの煩わしい点も多いものの、住み続けて行く上では全く支障のない盤石な権利形態」という言い方もできるのかもしれません。

ではこれにて、「借地権とは?わかりやすくご説明します!」の知恵袋を閉じさせていただきたいと思います。