近年、不動産を入手する手段として一躍脚光を浴びているのが「競売」という方法です。
そして、競売が注目されるようになった背景には「財テク関係の人気書籍などでその魅力が紹介されたこと」や「関係法令の改正により取引のリスクが軽減した」等の事情があるようですが、このムーブメントによって『これまで一部のプロ投資家や不動産業者しか参加することのなかった競売の門戸が、一般の方にも広く開かれる結果』となりました。
但し、如何に法改正がなされて安全性が高まったとはいっても、競落した物件についてトラブルが生じるケースもまだまだ少なくないというのが現実であるようです。
ただ、このようなリスクがあったとしても「近隣の相場から70%程度は安く物件を購入できるケースが多い」のも事実ですから、個人やセミプロの不動産投資家が競売に参加してくるケースは増加の一途を辿っているといいます。
そこで本日は、競売に対する知識基礎とも言うべき「不動産競売の流れ」をご説明してみたいと思います。
では、競売での不動産購入の知恵袋を開いてみましょう。

そもそも競売とは何か
読者の方の中には「競売について学ぶのは初めて」という方も少なくないことと思いますので、まずは競売という制度の概要から見て行きましょう。
まず、競売という言葉についてですが「きょうばい」と読む方も多いようですが、不動産業界・金融の世界では「けいばい」と読むのが一般的です。
「読み方なんでどうでもよい」と思われるかもしれませんが、物件に悪質な占有者などがいるケースでは、「きょうばい」と発音するだけでも『あっ!こいつ素人だな・・・』と侮られてしまう場合もありますから、少々注意しておきたいところでしょう。
なお、物件が競売に掛けられるまでのプロセスについては様々なパターンがありますが、基本的には借金の焦げ付きなどによって、強制的に不動産を処分させられるパターンが殆どとなるはずです。
住宅ローンであれ、事業用のローンであれ、お金を借りる際に金融機関等から「所有する不動産を担保に提供して欲しい」といった要望が出ることは少なくありません。
また、実際に物件を担保に提供して借入れを行った場合には登記簿謄本(正確には登記事項証明書ですが、本記事では登記簿謄本で統一させていただきます)の乙区と呼ばれる個所に『抵当権』という名称の権利が記載される(設定される)ことになります。
そして、この抵当権は「一番最初にこの権利を設定した者が優先的に弁済を受けられる」という性質を持っていますから、通常の住宅ローンなどにおいては「第一位の抵当権」として「一つの金融機関名(住宅ローンの借入れを行った銀行名)」が登記簿に記されることとなり、返済が完了すれば抵当権の登記は抹消されることになるです。
しかしながら、借入れの途中で返済が思うように行かなくなり、返済が滞った場合には、金融機関が設定されている抵当権を行使し、物件を競売に掛けて債権の回収を図ることになります。
ちなみに、物件所有者が借入れの返済ために、他の金融機関などからお金を借りた場合には、第一位の抵当権に続いて「二番抵当」「三番抵当」と数珠繋ぎに抵当権の数が増えて行くこともありますが、このパターンでも最終的には物件が競売に掛けられることに変わりはないでしょう。
但し、実務上は返済が滞ったからといって突然競売に至る場合は少なく、そこに至るまでには金融機関と債務者の間で何度も話し合いが持たれるのが通常ですし、弁護士などが間に入って債務整理を行い、数珠繋ぎになった債権者と交渉を行うケースも珍しくはありません。
ちなみに冒頭でも申し上げた通り、物件が競売に掛った場合には「市況価格よりも安価に競落される」ことも少なくありませんので、この段階で競売を回避して『任意売却』へと舵が切られることもあります。
任意売却については別記事「任意売却購入の流れをレポート!」にて詳細な解説を行っていますが、簡単にご説明するならば、落札価格が安価となりがちな競売ではなく、全ての債権者同意の下で通常の不動産売買を行い「より高額な物件売却を目指す手法」のことです。
もちろん任意売却を行ったからといって、必ずしも債権者が貸し出したお金を全て回収できる訳ではありませんが、債権者もプロですから「二番抵当だから●●●万円は回収したい」「三番なので●●万くらいは欲しい」といった『落とし所』は弁えていますので、彼らが提示する条件に見合う金額の買い手が現れれば、任意売却が成立することになります。
ところが債権者の中には、「交渉に応じない」「提示額に満足できない」と言い出す者もいますので、任意売却の交渉が決裂してしまった場合には、公的なオークションである「競売」という制度が利用されることになるのです。
そして競売に掛けられることが決定すれば、その旨を裁判所が許可し、競落人(物件を落札する者)の募集を行う公示へとお話が進んでいくことになります。
さて、ここまでの解説にて「競売の概要」や「そこに至るまでの流れ」についてはご理解いただけたことと思いますので、次項では『具体的に競売における物件取得までのプロセス』を見て行きましょう。
競売の流れを解説
競売物件を買いたいと思ったら、まずは裁判所より公示されている競売情報を閲覧して、「どの物件に入札を行うか」を検討する必要があります。
①物件探し
競売物件の情報は、各案件を担当する裁判所にて掲示されることとなっていますが、物件所在地の裁判所が必ずそのエリアの案件を担当する訳ではありませんので、該当地域の競売情報を完全に把握するのは意外に困難です。
そこで利用されることになるのが、新聞広告やインターネットの情報サイトとなります。
但し、新聞では得られる情報は限られたものとなってしまいますので、現在ではインターネットの競売専門のポータルサイトなどを利用する方が圧倒的に多いはずです。
こうしたポータルサイトでは、簡単な操作で物件情報をダウンロードすることが可能ですから、誰でも手軽に競売に参加することが可能となります。
②3点セットによる調査
そして、ポータルサイトにて気に入った物件が見付かったなら、まずは「入札をしてよいのか?」「いくらで入札するべきなのか?」の判断と「物件に対する調査」を開始しなければなりません。
なお、ここで頼りになるのが通称・3点セットと呼ばれる下記の資料です。
- 物件明細書
- 現況調査報告書
- 評価書
では、その内容を詳しく見て行きましょう。
物件明細書
物件のおよその概要が記されていますが、この資料から得られる情報はあまり多くありません。
現況調査報告書
物件の概要や利用状況について、関係者の陳述や執行官の意見が記されている上、公図に測量図、現地の写真まで付いた資料となります。
入札対象の概要ばかりか、これまでの物件利用状況の経緯まで示されていますので、隅々までじっくり目を通しておきたい資料です。
評価書
対象物件の価値を検討した資料となります。
目線としては不動産鑑定評価に近いものとなりますから、入札価格決定の大きなヒントとなるはずです。
但し、「資料上の評価」と「実際に不動産の市場で取引されている相場」には『ズレ』が生じることも少なくありませんので、別途市場価格の調査を行うことが重要でしょう。
これらの資料は情報サイトなどから手軽に入手できますので、競売に参加する際には必ず手に入れておくべきです。
なお、3点セットに目を通すことはもちろんですが、その他の調査も重要となります。
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③その他の調査
3点セットの内容に加え、一般的に不動産業者が売買に際してを行う程度の調査はなるべく済ませてから入札に臨みたいところです。
物件調査については多くの項目がありますが、具体的な内容については過去に不動産業者向けに記した「現地調査」と「行政調査」の記事をご参照ください。
また、これに加え「地中配管調査の方法について!」・「不動産の道路調査について!」の記事についてもご一読いただくことをおすすめいたします。
ちなみに、競売物件は物件の内部をまず見ることができませんので、『外観から如何に建物の瑕疵や、今後起こり得るであろう問題を予測することができるか』が非常に重要なポイントとなって来るかと思います。
そして、この作業に当たっては過去記事「収益物件購入のポイントと注意点について」にて解説した調査のノウハウがお役立ていただけることと思います。
④資金調達
「購入資金はキャッシュで!」という方には全く関係のない話ですが、競売参加に際して「銀行から資金の借入れを行おう」という方については少々注意が必要です。
実は少し前まで、競売におけるローンの利用は禁止されていました。
但し、その後の法改正によって「融資の利用が許可されることになりました」が、お金を出す銀行的には『占有者の立退きなどに失敗する可能性もある』として、ローンの審査を通さないケースも珍しくないのです。
なお競売のルールでは、たとえ資金調達の目途が立っていなくとも「一旦入札してしまったら後には引けいないシステム」となっていますから、融資を利用する場合にはしっかり下準備を行っておく必要があるしょう。
⑤入 札
そして、ここでようやく「入札を行う段階」へと入っていきます。
競売参加の申込関係書類は裁判所で取得することができますし、他に必要な書類は住民票程度となりますので、入札の準備自体は難しいものではありません。
但し、入札には「保証金の納付」が義務付けられていますので、売却基準価額の20%以上を保証金として事前に振込み、振込控えを入札書類と共に送る必要があります。
なお入札金額の記入においては、売却基準価額の80%以上とするルールもありますので、あまり安い値段を書かないように注意しましょう。
そして、申込書類を投函する前には必ず金額等の再確認を行うべきです。
「金額の桁がひとつ多い」、反対に「少ない」などのミスは取り返しの付かない失敗に繋がるケースもありますから、可能な限り慎重に手続きを進めていきましょう。
⑥開札・結果発表
入札締め切りから程なくして、開札と結果の発表が行われます。
管轄する裁判所でも結果を知ることができますが、多くの方はネットにて結果を確認しているようです。
なお、落札できなかった方には、その後10日程の期間内に預け入れしていた保証金の返金が行われます。
⑦決済・引渡し
そして見事に、落札することができた方は「決済・引渡し」へと駒を進めて行きますが、ここから先は通常の決済とはやや方法が異なるものとなります。
まずは「売却許可決定」が裁判所から下されますが、売却の確定はここから一週間後となるでしょう。
これは競売の結果に「異議申し立て」がないかを確認するための期間となり、ここで問題がなければ残代金を納付して、物件の引渡しとなります。
なお、所有権の移転登記等は全て裁判所が職権で行いますので、何処かに出向いて裁判所の方と話すなどのプロセスは存在しません。
そして後日、登記識別情報が届き、所有権の移転が完了することになります。
⑧明け渡し
さて、ここからが競売の「山場」となります。
物件の所有権が自分のものになったとはいえ、建物の中には債務者や、債務者から部屋を借りている者(賃借人)が普通に生活しているケースも珍しくありません。
こうした者達を立ち退かせるのが競売のクライマックスであり、最もリスキーな場面でもあります。
実はこの明け渡しの交渉については、⑦の「売却許可決定」以降は行動を起こすことが可能です。
但し、あくまでも当事者同士での「いつ出て行ってくれる?」などの交渉が可能となるだけあり、「立退き命令」などを出すのは残代金納付後でなければなりません。
もちろん、事前の交渉で退去させられれば問題はないのですが、言うことを聞いてもらえない場合は、いよいよ「立退き命令」の発動となります。
※物件の購入目的が収益物件の獲得である場合には、賃借人をそのまま住まわせて、賃料収入を得ることも可能です。
⑨引渡し命令・強制執行
競売の落札者が引渡しを求めているのにも係わらず、退去しようしない占有者に対しては、裁判所への申立てを行うことより「立退き命令」を出してもらうことができます。
※賃借人を退去させる場合には、抵当権の設定時期や賃貸借契約の形態などによって猶予期間等が異なりますので、詳細については別記事「競売購入の注意点についてまとめてみます!」をご参照ください。
申立てに掛かる費用は僅か数千円で済みますし、発動までの期間も7日みておけば充分でしょう。
そして引渡し命令発動後、1週間は占有者に異議申し立ての機会が与えらえますが、ここで異議が唱えられた場合(不服申立をされた場合)には、裁判所が不服申立に対する判断を下すのを待たねばなりません。(2週間もあれば結論は出るはずです)
また不服の申立てが却下され、その上でも占有者が引渡し命令に従わない場合には、いよいよ強制執行の手続きを行うことになります。
なお、今回のケースでは既に「立退き命令」が下されおり、この命令には立退きの判決を得ているの同じ効力がありますから、原則として占有者に抗う術はありませんが申立てから強制執行の実行までには1ヶ月~3ヶ月程の期間を要する場合もあります。
こうして強制執行の当日を迎えたなら、申立人(落札者)は事前に手配した立会人や荷物整理をする人員(専門業者か引っ越し業者)、そして裁判所の執行官と共に現地に向かいます。
事前に占有者には通告がなされていますので、この段階で退去している可能性も高いのですが、退去していない場合はドアを破り、入居者の追い出しと荷物の撤去が行われるのです。
⑩後始末
荷物の撤去後はドアの鍵を変えるなどして、占有者が戻って来られないようにする処置が執られ、荷物は別の場所に倉庫を借りて(申立人負担)、しばらく保管されます。
これらの荷物の権利は「未だ占有者のもの」となりますが、最終的には荷物も競売に掛けて処理することになるでしょう。(荷物を落札する者が現れる可能性は0に等しいですから、実際は申立人が落札して廃棄処分するのが通常です)
こうして手に入れた物件を建替えたり、リフォームするなどして、新たな運用が開始されれば「競売物件の購入は完了」となります。
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競売の流れまとめ
以上が競売の流れのご説明となります。
なお、本記事を読んでいただいても、自分一人で全ての手続きを行うのはなかなか「しんどい」ものがあるのも確かでしょう。
そして、このような時には「競売の代行会社」を利用するのがおすすめとなります。
これらの競売代行会社の多くは成功報酬で仕事を請け負い、物件調査から落札価格の検討、そして占有者の追い出しまでも「お任せ」することができますから、これは非常に魅力的です。
但し、注意すべきは費用の問題でしょう。
折角物件を安く競落しても、「代行会社に支払う費用が高く付き過ぎて、結局不動産会社を通して通常の物件を購入するのと変わらなかった」という話も時折聞きますので、しっかり費用の計算をした上でのご利用をおすすめいたします。
ではこれにて、不動産競売の流れをご説明いたします!の知恵袋を閉じさせていただきたいと思います!